はじめに 「聞こえにくいのに、本人が動かない」というもどかしさ

「最近テレビの音が大きくて…」「何度言っても聞き返される」「補聴器をすすめると怒り出す」

こうしたお悩みを抱えて、ご家族だけでご来店されるケースが実は少なくありません。「なぜ自分の体のことなのに、本人がその気にならないんだろう」——そのもどかしさは、ご家族として当然の気持ちです。しかし、ご本人にもつけたくない理由があるのです。今日はその理由を理解したうえで、ご家族ができる「押しつけない」アプローチをお伝えします。

なぜ補聴器を「つけたがらない」のか?――5つのよくある理由

ご本人が補聴器を拒む背景には、いくつかの共通したパターンがあります。

「自分はまだ聞こえている」と思っている

加齢による難聴(加齢性難聴)は、数年かけてゆっくり進行します。ある日突然聞こえなくなるのではなく、じわじわと聞こえにくくなるため、本人は変化に気づきにくいのです。

一般的に、加齢性難聴ではまず高い音域の聞こえが低下します。日常会話の中でも高い音が聞き取りにくくなり、子音(「さ行」「た行」「か行」など)の区別が難しくなることがありますが、会話の「大まかな流れ」はつかめるため、「聞こえていないこと自体に気づかない」という状況が起こります。

年寄り扱いされたくない」

補聴器を「老い」の象徴のように感じ、抵抗を覚える方は少なくありません。「自分はまだそんな年じゃない」という気持ちは、ご本人の自尊心に深く関わる問題です。

「面倒くさそう・わずらわしそう」

小さな機器の操作、電池交換、お手入れ、通院・来店——こうした手間が負担に感じられることがあります。

過去に嫌な経験がある

以前に補聴器を試して「うるさかった」「合わなかった」という経験をお持ちの方や、そのようなお話を聞いたことのある方は、「補聴器=不快なもの」というイメージが定着していることがあります。

「高額なのでは」という不安

価格への心配から、家族に負担をかけたくないという気持ちが、「いらない」という言葉に変わっていることもあります。

💡 ここがポイント

「つけたがらない」の裏には、不安・プライド・過去の経験など、ご本人なりの理由があります。まずはその気持ちを否定せず、理解しようとすることが第一歩です。

注意したいアプローチ

善意からの行動が、逆効果になってしまうことがあります。

やりがちなこと

・「もう聞こえてないでしょ!」と強く指摘する

・「みんな困ってるよ」と責めるように伝える

・家族が勝手に補聴器を購入してくる

・他人と比較する(「○○さんはつけてるよ」)

こうした言動は、ご本人に「否定されている」「責められている」と感じさせやすく、補聴器への抵抗感をかえって強めてしまうことがあります。

ご家族ができる「寄り添う」アプローチ

まずは「困っている場面」を一緒に見つける

「聞こえてないよ!」と言うのではなく、具体的な場面をきっかけにしてみましょう。

・「さっき電話で、相手の名前が聞き取れなかったみたいだけど、大丈夫だった?」

・「〇〇さんが話しかけてたの、気づいてた?」

「あなたの耳が悪い」ではなく、「こういう場面で困っていないか心配している」という伝え方が大切です。

「補聴器」という言葉をいきなり出さない

最初の会話で「だから補聴器を」と結論に飛ぶと、拒否反応が出やすくなります。まずは「聞こえ」について話せる雰囲気づくりを意識してください。

・「テレビで難聴の特集やってたよ」

・「友達のお父さんが耳鼻科に行ってよかったって言ってた」

さりげなく情報に触れる機会をつくるのが効果的です。

耳鼻咽喉科の受診をすすめる

補聴器を検討する前に、まず耳鼻咽喉科で医師の診断を受けていただくことが大切です。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、補聴器の使用にあたっては耳鼻咽喉科医の診察を受けることを推奨しています。聞こえにくさの原因は加齢だけとは限りません。耳垢(耳垢栓塞)が原因で聞こえにくくなっているケースもあり、その場合は耳垢を除去するだけでも改善します。「健康診断の一環として、耳の検査だけでも受けてみない?」と伝えると、ハードルが下がることがあります。

🩺 補足:補聴器は「管理医療機器」です

補聴器は、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で「管理医療機器(クラスⅡ)」に分類され、安全管理や適切な調整が大切な機器です。可能な限り、自己判断で購入するのではなく、医師の診断を経ることが、正しい補聴器選びの出発点になります。

ご家族が先に情報を集める

ご本人がまだ動かない段階でも、ご家族が先に補聴器専門店にご相談に来ていただくことは大歓迎です。当店でも「家族相談」として対応しております。

・最近の補聴器はどんなものがあるのか

・価格帯はどのくらいか

・どんな流れで購入・調整するのか

こうした情報を事前に知っておくと、ご本人に説明するときに具体的かつ安心感のある話ができます。

「試すだけ」のハードルを下げる

ご本人が少しでも興味を示したら、次のような声かけが効果的です。

・「試すだけ試してみない?」

・「どうしても合わなければやめればいいんだから」

認定補聴器専門店では、購入決定前に一定期間の試聴(貸し出し)ができるのが一般的です。(※制度や期間は店舗によって異なります。)実際に日常生活で使ってみて、「思ったより聞こえる」「孫の声がはっきりした」という体験が、ご本人の気持ちを変える一番の力になります。

ご本人のペースを尊重する

聞こえの問題は、命に直結する緊急事態ではない(と本人は思っている)からこそ、「いつかその気になったら」という余裕をご家族が持つことも大切です。ただし、後述するように難聴を放置するリスクは確かに存在します。焦る必要はありませんが、「まったく何もしない」のではなく、「種をまき続ける」イメージで関わってみてください。

知っておいてほしい――難聴を放置するリスク

ご本人に無理強いは禁物ですが、ご家族として「なぜ放置が心配なのか」を知っておくことは重要です。

認知機能との関連

2017年に国際的な医学雑誌『The Lancet』に掲載された国際委員会の報告で、難聴は認知症の修正可能な危険因子(対処することでリスクを減らせる可能性のある要因)の一つとして位置づけられました。

これは「難聴になると必ず認知症になる、または補聴器で必ず予防できる」という意味ではありません。しかし、聞こえにくさを放置することで脳への音の刺激が減り、社会的な交流が減少し、結果として認知機能の低下リスクが高まると考えられています。

社会的孤立・うつとの関連

WHO(世界保健機関)は、対処されない難聴が社会的孤立、孤独感、うつ症状と関連することを指摘しています。

会話がおっくうになる外出が減る人との関わりが減る気力が低下する——この悪循環が、生活の質を大きく下げてしまうのです。

転倒リスクとの関連

米国ジョンズ・ホプキンス大学のリン教授らの研究をはじめ、難聴が転倒リスクの増加と関連するという報告がされています。空間認知やバランス感覚に聴覚が関わっていること、また聞こえにくさによって周囲への注意力が低下することが理由と考えられています。

📌 ご家族へのアドバイス

これらのリスクをご本人に伝えるときは、「脅し」にならないよう注意してください。「認知症になるよ!」ではなく、「聞こえを大事にすることが、元気に長く過ごす秘訣らしいよ」と、ポジティブな言い方に変換するのがコツです。

「昔の補聴器」と「今の補聴器」はまったく違います

過去に補聴器で嫌な経験をされた方や、「大きくて目立つもの」というイメージを持っている方に向けて、現在の補聴器について知っていただきたいことをまとめます。

昔のイメージ 今の補聴器
大きくて目立つ 耳の中に収まる超小型タイプや、イヤホンのようなデザインのものもある
ピーピー音がする(ハウリング) ハウリング抑制機能が大幅に進化
雑音がうるさい 周囲の騒音を抑え、人の声を強調する機能が搭載されている機種が選べる
調整が難しい 認定補聴器技能者が聴力データに基づき、きめ細かく調整
電池交換が面倒 充電式タイプが普及し、置くだけで充電可能

こうした進化を具体的にお見せすることで、ご本人の先入観(「どうせ合わない」「目立つから嫌だ」)が解消されることもあります。

ご家族のコミュニケーションの工夫

補聴器の有無にかかわらず、聞こえにくいご家族との日常会話をスムーズにするための工夫もご紹介します。

顔を見て話す

口の動きや表情が、聞き取りの助けになります

少しゆっくり、はっきりと話す

大声ではなく、明瞭に発音することが大切です

話しかける前に注意を引く

肩を軽くたたく、名前を呼ぶなどしてから話し始める

静かな環境で話す

テレビを消す、窓を閉めるだけでも聞き取りやすさが変わります

言い換える

聞き返されたら同じ言葉を繰り返すのではなく、別の表現で言い直す

当店からお伝えしたいこと

私たちは認定補聴器専門店として、日々たくさんのご相談をお受けしています。「本人が来たがらないんです」というお電話やご来店は、けっして珍しいことではありません。むしろ、ご家族が心配して動き出してくださること自体が、とても大切な第一歩です。当店では

・ご家族だけのご相談も歓迎しています

・補聴器の試聴(貸し出し)で、ご本人に体験していただけます

・ご購入後の調整・メンテナンスも継続的にサポートいたします

・無理に購入をおすすめするのではなく、まずは相談を大切にしています

「いつか、ご本人がその気になったときに安心して来られる場所」として、私たちのことを覚えていただけたら嬉しく思います。お気軽にお問い合わせください。

 

 

参照情報

・一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「難聴について」

https://www.jibika.or.jp/owned/hwel/hearingloss/

・同「難聴と認知症の関係」

https://owned.jibika.or.jp/hearinglossanddementia

Medical Note「補聴器装着など聴覚的介入でハイリスクグループの認知機能低下抑制研究代表者が講演」

https://medicalnote.jp/nj_articles/231109-001-AK

 

お問い合わせ・来店のご予約はお近くの店舗までお電話を

豊中本店:06-6848-4133

池田店:072-751-3341

高槻店:072-683-4133

茨木店:072-634-4133

補聴器をご検討の方・補聴器でお悩みの方、どうぞ安心してお任せください。

当店では他店様でご購入の補聴器も喜んで調整・クリーニングを承ります。

また当店はご予約のお客さまを優先させていただいております。
お待たせしないために、ご来店の前にご都合の良い日時のご予約をお勧めいたします。